孤独な私がおしゃべりしたい時間

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性犯罪の被害者の"あるべき姿"への疑問

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2019年12月18日は驚くべき日でした。

 

 

東京地方裁判所はジャーナリストの伊藤詩織氏が

元TBS記者の山口敬之氏に強姦されたとして損害賠償を求めた訴訟で

山口氏に300万円の支払いを命じたのです。

伊藤詩織氏が勝訴、強姦めぐる訴訟で元記者に賠償命令 - BBCニュース

 

 

この事件は山口氏に対して逮捕状が出ていたにもかかわらず、

逮捕直前で"ストップ"がかかり逮捕されなかった異例さ、

 そして逮捕状執行停止を決裁したとされる中村格氏が

官房長官の元秘書官であったことから

 

単純な「性犯罪事件」としてではない側面でも

SNS上で注目を集めていました。

 (テレビではあまり報道されなかったようですが…)

 

 

政権中枢の人物と関係のある被疑者が

権力にすり寄って司法の手を逃れた、逮捕状執行停止を勝ち取った

という疑惑がささやかれ

 

この点から政権支持者と不支持者の間の論争へも発展しました。

 

 

そうした陰謀論がささやかれた事件が

逮捕状執行停止、不起訴相当と

刑事裁判がなされなかったにも関わらず、

 

民事訴訟の場にて、山口氏への賠償請求が認められたことは

非常に注目すべきことと思います。

 

 

今日の記事では

山口敬之氏の会見などを見て私が考えたこと・疑問に思ったことで

どうしても読者の方に伝えたいことがあり、

キーボードを叩いています。

 


テーマは「性犯罪被害者が"どう見られているのか"」

「性犯罪の被害者の"あるべき姿"への疑問」です。
※あくまで事件の真偽は司法が論じるものであると考えますし裁判も続くと思います。

この段階では、地裁の判決に基づいて「合意のない性行為」があったものとして

記事を書いています。

 

 

山口氏のふたつの記者会見

①12/18の記者会見

東京地裁の山口氏への賠償請求を認める判決が出た後、

山口氏は記者会見を開きました。

 


↓12/18記者会見の動画↓ 


元TBS記者に賠償命令 山口氏控訴へ 会見ノーカット

 

 

ここで注目を集めたのが

 

「本当に性被害に遭った方は伊藤さんが本当のことを言っていない、
それからこういう記者会見の場で笑ったり、上を見たり、
テレビに出演してあのような表情をすることは絶対にない」

 

と山口氏の元に連絡をした"本当の"性犯罪被害者の方が証言したという部分。

news.livedoor.com

 

 

Twitter上でも非常に注目を集めましたし

私自身の心にもある疑問が湧きました。

 

 

②12/19の記者会見

加えて12/19 日本外国特派員協会の会見では

19分ごろ山口氏の弁護士が

伊藤詩織氏の裁判時の供述の矛盾点を指摘したうえで

 

「性犯罪の被害者は正直に話すのが普通ではないでしょうか」と発言しています。

 

↓日本外国特派員協会での会見の様子↓

【ノーカット】元TBS記者 山口敬之氏が日本外国特派員協会で会見

 

↓日本外国特派員協会での会見 文字起こし版

元TBS記者の山口敬之氏が会見(全文1)「Black Box」は全てうそか妄想(THE PAGE) - Yahoo!ニュース

 

 

 

"本当の被害者"のすべき行動

 


「本当の性犯罪被害者の行動」「性犯罪の被害者の普通」とは何でしょうか?

 

 

12/19の記者会見ではフリーランスのえがわ氏(正確な漢字がわからないので平仮名に)が

12/18の山口氏の発言、

12/19記者会見内の山口氏弁護士の

「性犯罪の被害者は正直に話すのが普通ではないでしょうか」という発言に触れ、

 

 

「レイプ被害者が普通取るべき態度とは?」

山口氏と山口氏の弁護士に質問しました。(45分ごろ)

 

 

これに対して山口氏は

 

「本当に性被害に遭った方は伊藤さんが本当のことを言っていない、
それからこういう記者会見の場で笑ったり、上を見たり、
テレビに出演してあのような表情をすることは絶対にない」

 

という発言はあくまで、

性被害に遭われた方が自分に教えてくれた事

でありご自身の発言ではないと回答。

 

 

山口氏の弁護士は再度伊藤氏の供述の矛盾点を上げ

「被害者が嘘をつくのか疑問」と回答しました。

(日本外国特派員協会での会見 49分ごろ)

 

 

山口氏の回答は「引用でした」(自分の意見ではない)
山口氏の弁護士の回答は「"被害者"が嘘をつくのはおかしい」

 

という回答で「レイプの被害者が普通取るべき態度とは?」という質問には

明確には答えなかったように感じました。

(山口氏もご自身の意見ではないと主張したものの自身の発言を補強する引用として使用しているのですから完全に同意しないということは無いのではと考えます)

 

 

また、判決後SNS上では

伊藤氏が「複数愛(ポリアモリー)」の広告塔である、

「レイプ被害を訴えた人が複数愛を呼びかけるのは疑問」

という発言も見受けられました。

 

 

これらの発言を目にして奇妙だなと思ったのは

「レイプ被害者はこうあるべき!!!」という通念が

かなり強くあることでした。

 

 

犯罪の被害者の"事実"

縁起でもないですが

殺人事件の被害者に自分がなってしまったと想像してみてください。

 

 

そこには「殺された(死んでいる)」という事実があります。

また「死体はしゃべらないべき」「死体は笑わないべき」

なんて言われても、当たり前(というか物理的に無理)なのはわかります。

 


強盗に遭ってしまったら

「被害者は財産を奪われているべき」

ってそりゃそうだって話ですよね。

 

 

「強盗に遭った」んだから。

 

 

でも、拳銃を突き付けられて

お金を渡してしまったとしても

「喜んで自分から財産を渡した」とか、

 

事件後にスーパーで買い物したとして

「強盗に遭ったのにお金を使うのはおかしい!!」

とか言われることは少ないのかなと思います。

 

 

強盗に遭うことは怖いことだけど、

その体験談を率先して他の人に広めて教訓にしてもらおう!と活動して

「強盗に遭ったくせに人前に出るなんて…」

と言われることがどれほどあるでしょうか。

 

 

レイプ被害者の"事実"

同じようにレイプ被害者も

「合意なく性行為をされた」ということが事実なのではないでしょうか。

 

 

確かに事件後、とても記者会見をしたり、

テレビに出ることが出来ない人もいると思います。

 

 

レイプは魂の殺人とも言われています。

当然のことでしょう。

 

 

じゃあ被害者はみんな同じ反応を示し、

一様に笑顔を無くし、誰にも笑顔を見せず生きていく

 

それが「被害者」なのでしょうか。

 

 

人間は人それぞれ、

抱えている気持ちも経験も、意思の表し方も

生き方だって、何もかもが違うものではないでしょうか。

 

 

「被害者はこうあるべき」という主張こそが

性犯罪の取り締まり方をゆがめているような気がしてなりません。

 

また、これはレイプだけの問題ではないとも思います。

 

 

痴漢の被害者なら

 

牧野雅子さんの「痴漢とはなにか」では、

痴漢事件の多くに適用される迷惑防止条例の卑猥禁止条項が

"性的な羞恥心の侵害"を禁じている、ということが記されています。

 

 

つまり被害者の供述調書には、

例え被害者が怒っていたとしても、

「性的な恥じらいを感じました」ということを

全面的に押し出さなければいけないのです。

 

 

痴漢の被害者は"羞恥心を感じているべき"と条例で定められているのです。

痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学

痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学

  • 作者:牧野 雅子
  • 出版社/メーカー: エトセトラブックス
  • 発売日: 2019/11/07
  • メディア: 単行本
 

 

 

 

私が痴漢"被害者"になった時

私は高校生の時に電車で痴漢に遭いました。

 

 

そこまで混んでいない電車なのに

自分と背中合わせに立ってくる男性がいて

少し奇妙に感じました。

 

 

しかし私は手すりに背を向けて立っていたので

相手も手すりに掴まりたかったのだろうと

最初は気にせず友達としゃべっていました。

 

 

触られた時はすぐにわかりました。

手の甲で尻を撫でているのです。

 

 

さりげなく自分の手で押しのけましたが、

直ぐに手を戻して触り続けました。

 

 

気持ち悪かったし何より怖かった。

 

 

友人に「向こうの車両に行かない?」と言って

直ぐに車両を移動しました。

 

 

別に恥ずかしくは無かったです。

ただ気持ち悪かった。

 

 

触られたと口にし、

自分自身の耳でそれを聴くのも気持ち悪くて

友人にも親にも言えませんでした。

 

 

人の体に勝手に触れるのが「痴漢」であると

私は考えるので「痴漢」という言葉を使用しましたが、

条例で考えれば私は性的な羞恥心を感じていないので

「痴漢には遭っていない」とみなされてしまうかもしれません。

 

 

私は「痴漢には遭っていない」のでしょうか?

 

 

性犯罪の被害者は若くてかわいい女性

先ほどの痴漢の経験は誰かに話せば

「痴漢だよ!」と同意してくるかもしれません。

 

 

では被害にあった私が55歳、

中年の女性だったとしたらどうでしょう。

 

 

性的な嫌がらせの告発は

どんな年齢の被害者であっても可能です。

 

 

しかしある年齢やある容姿の被害者に対しては

「お前みたいなババア、誰も襲わねーよ」とか

「ブスだから男の気を気を引こうとしたんだろ?」などと

心無い言葉を投げつける人たちもいます。

 

 

そうした人の心の中では性犯罪の被害者は

「若くてかわいい女の子」だからです。

 

 

「若くてかわいい女の子」だから

男性の性欲を煽って性犯罪を誘発させてしまうのです。

 

 

んなわけあるかい!!!!

 

 

性暴力と性行為の違い

一般的に"男性から女性への性犯罪は性欲に基づくもの"と考えられがちですが

その実、性欲よりもむしろ

「男性性の達成」という目的でなされるという研究結果があります。

 

 

すなわち、男性が「理想的とされる男性性」を達成できない時に

犯罪を犯してでも男性性を達成しようとして

性犯罪を犯すケースがあるのです。

 

 

詳しくは以前フェミニズムは「女のためのもの」じゃないって知ってた? - 孤独な私がおしゃべりしたい時間で取り上げた

ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた

--あなたがあなたらしくいられるための29問」

(著:一橋大学社会学佐藤文香ゼミ生一同)

簡単な言葉で解説されていますので興味のある方はご覧ください。 

 

 

性犯罪が「性欲」に基づいてなされると捉えることもまた、

性犯罪への認識を歪めることに繋がっていると感じます。

 

 

性犯罪は「暴力」であり「性行為」ではありません。

 

 

勿論動機が「性欲」であっても許されるべきではないことに

変わりはありませんが、

そもそも通常なされる「性行為」とは本質的に異なるものだ

認識すべきだと考えます。 

 

 

誰でも被害者になる

殺人でも強盗でも、性犯罪でも。

 

 

悲しいことに、どんな犯罪でも、

誰もが被害者になる可能性があります。

 

 

そして事実として言えるのは

「被害に遭った」ということであり、

 

 

「被害者はこうあるべき」といった

被害者である資格は存在しません。

 

 

このことがもっともっと知られてほしい、

一般的な認識として浸透してほしい。

 

 

そう思ってこの記事を書きました。

 

ここまで読んでくださってありがとうございました。

魔女(まじょ)@意識は高くないマン (@korokorokemari) | Twitterでした。